シフト勤務と睡眠障害|体内時計のズレを最小化する実践ガイド【医師が解説】

睡眠

要約(先に結論)

  • シフト勤務の最大問題は概日リズム(体内時計)と睡眠時間帯・食事・光のタイミングの不一致=“時刻のミスマッチ”
  • 夜勤明け~連勤では総睡眠時間の不足+断片化が起こりやすく、注意力低下・判断ミス・事故リスク上昇につながる。
  • 介入の柱は光のコントロール、仮眠(ナップ)、カフェインの“切り時”、寝床時間の最適化(CBT-I要素)、食事・運動・入浴のタイミング
  • 固定夜勤とローテーション夜勤では戦略を変える。特に夜勤最終2~3時間はカフェイン断ち/退勤時は遮光/就寝前の減光が効く。

まず押さえる:なぜ眠れなくなるのか

  • 概日リズムの位相朝の光で前進/夜の光で後退。夜勤は夜間に強光・活動、日中に就寝という“逆流”を強いられる。
  • **睡眠圧(覚醒の累積)**は溜まっても、昼の睡眠は環境刺激(光・騒音・温度)で浅く短くなりがち
  • 結果として短時間かつ断片化した睡眠日中の強い眠気、注意散漫、情動不安定へ。

勤務タイプ別・現実的な対策

1) ローテーション夜勤(順回り:早→遅→夜 が望ましい)

  • スケジューリング:可能なら順回り(朝→夕→夜)に。逆回りは位相ずれが大きい。
  • 夜勤前の準備:前日夕方に90分の“予備ナップ”。カフェインは勤務開始~中盤まで。
  • 勤務中:前半に明るい光(できれば2,000lx以上)00:00–04:00の最困難帯に10–20分仮眠
  • 夜勤終盤:事故防止の要。ここでのカフェインは厳禁(帰宅後の入眠を阻害)。
  • 退勤~就寝:退勤時はサングラス・遮光傘帰宅後すぐの軽食→シャワー部屋は徹底遮光・耳栓・アイマスクコア睡眠3–4時間を確保。
  • 起床後:強い光は避けつつ、夜勤2連目がある日は日没前後に短時間の屋外光で位相の乱高下を軽減。

2) 固定夜勤(連続する夜勤を長期で)

  • 位相を“夜型”へ部分シフト:休日も起床時刻を大きく崩さない(±2–3時間内)。
  • 日中睡眠の質改善:室温18–22℃、遮光カーテン、騒音対策。就寝直前は40℃で10–15分入浴→放熱で入眠促進。
  • 光の衛生:出勤前に段階的に明るく、退勤時は遮光。休日前に完全昼型へ戻すより、中間相を維持すると再シフトの負担が小さい。

事故とパフォーマンスを守る“4本柱”

    • 夜勤中は明るい光で覚醒度UP/終盤~退勤時は遮光
  1. 仮眠
    • 10–20分のパワーナップを深夜帯に。長くても90分1サイクルまで。
  2. カフェイン
    • 投与は勤務前半~中盤に限定。終盤の摂取は厳禁(日中睡眠を壊す)。
  3. 寝床時間の最適化(CBT-I)
    • 眠くなってから就床/再入眠できなければ一度離床
    • 日中睡眠は環境最適化+時間を欲張らない(コア3–4h+必要なら夕方に短時間)。

食事・運動・入浴のタイミング

  • 食事:夜間は軽め・高タンパク寄り、高脂肪・高糖質は眠気と胃腸負担を増やす。就寝前2–3時間は固形食を避ける
  • 水分・利尿:日中睡眠前の大量飲水は中途覚醒を誘発。調整を。
  • 運動:勤務前の軽い有酸素10–20分は覚醒に○。就寝直前の激運動は×
  • 入浴:日中就寝前に40℃で10–15分→放熱で入眠を助ける。

連勤・連続夜勤のコツ(チェックリスト)

  • 夜勤終盤のカフェイン断ち(少なくとも勤務終了3–6時間前に打ち切る)
  • 退勤時は遮光自室は完全遮光+耳栓・アイマスク
  • コア睡眠3–4hを死守+必要に応じ夕方の短い補助睡眠
  • 日勤帯は強い光を避ける(スーパーやジムの高照度は短時間で)
  • 休日前の“完全昼型戻し”を無理にやらない(反動で週明けが崩れる)

よくある悩み → リカバリ

  • 「帰宅後ベッドに入っても眠れない」
    退勤前のカフェイン/強光暴露を見直す。帰宅後は儀式化(軽食→シャワー→遮光)
  • 「日中すぐ目が覚めてしまう」
    室温・遮光・耳栓を強化。眠れなくても横になって休息する時間を確保。
  • 「休日に生活が崩れる」
    起床時刻のブレを±2–3h内に。午前~昼の強い屋外光はリズムリセットが強すぎる場合があるので量を調整。

受診の目安

  • いびき・無呼吸の目撃/強い日中の眠気(睡眠時無呼吸の疑い)
  • 週3回以上・3か月以上の不眠症状+日中機能障害
  • 脚の不快感・周期性運動(RLS/PLMD)
  • 抑うつ・不安の増悪、嗜眠・覚醒維持困難
    睡眠医療の専門医で評価(必要に応じPSG/在宅検査、CBT-I、治療調整)。

医師の監修コメント

シフト勤務では「いつ寝るか」だけでなく「いつ光を浴び、いつカフェインを切るか」が睡眠の質と安全性を左右します。夜勤終盤はカフェイン断ち→退勤時遮光→帰宅後すぐの減光・遮音という“落ちるための導線”を儀式化すると、短い日中睡眠でも回復感が変わります。スケジュール変更が難しい職場でも、光・仮眠・カフェインの三点を整えるだけで事故とミスは確実に減らせます。


参考文献

  • American Academy of Sleep Medicine. Circadian rhythm sleep-wake disorders and shift work.
  • Wright KP, et al. Physiological and cognitive consequences of circadian misalignment.
  • Boivin DB, et al. Light exposure and shift-work strategies.
  • Caldwell JA, et al. Fatigue countermeasures in aviation/healthcare shift work.
  • Arendt J. Melatonin and shift work: timing and dosing considerations.
  • Riemann D, et al. Behavioral interventions (CBT-I) adapted for shift workers.

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